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「肛門の腫れ、痛み、出血 痔」  岩垂純一監修 NHK出版


食べ物の出口である「肛門」は、食べ物の入り口である「口」と同様、私たちの体にとって、とても大切な働きをしています。しかし、肛門は、普段の生活のなかで、とかく軽視されてはいないでしょうか。

この本で取り上げる「痔」は「日本人の3人に1人は患わっている」といわれるほど、ポピュラーな病気です。




肛門の周辺に生じた病気を総称して「痔(じ)」と言いますが、痔は誰に起こってもおかしくない病気です。

結論から先に言いますと、痔の治療で手術をするのは、よほど重症の痔を患っている場合です。かつて「痔の部分はすべて切り取る」という治療の考え方が一般的だった時代もありましたが、今では、手術は極力避けるようになっています。

いくら治療を受けても、痔の根源である便秘や下痢の習慣があれば、痔は治りませんし、治った場合でも再発しやすいのです。逆に言えば、便秘や下痢が起こらないような日常生活を維持していけば、痔は治りやすく、また、新たな痔の発症を予防することになります。

痔は生活習慣病の一つともいえ、一生付き合っていかなくてはならない慢性病です。薬を飲めば治る病気などとは違って、生活習慣を見直して、毎日毎日、丁寧にケアしていくことが大切です。「痔とうまく付き合っていくことが出来る人」が、痔の悩みから脱出出来ると言ってもよいでしょう。




肛門の一番内側を取り巻いているのが内括約筋で、これは「不随意筋」といって、自分の意志に関係なく動き、肛門を一定の力で締めています。眠っているときに、肛門から便やガスが漏れないのは、この内括約筋の働きのおかげです。内括約筋は、便が直腸に溜ると自然にゆるみ、排便がすむと、また元どおりに締まります。

内括約筋の外側をぐるりと取り巻いているのが、外括約筋です。これは随意筋といって、自分の意志で動かせます。便意やおならを我慢するときに、きゅっと肛門を締められるよは、この外括約筋のおかげです。





痔核は肛門を閉じる働きをしている「肛門のクッション」の部分に起きます。肛門に様々な負担がかかると、このクッション部分がうっ血してきます。そしてクッションを支えている組織がちぎれたり緩んだりして、クッション自体がだんだん大きくなって、いぼのように膨らんでくるのです。

痔核は、直腸と肛門の境目である歯状線よりも上、つまり、直腸部分のクッションが大きくなった「内痔核」と、歯状線より下の肛門のクッション部分が大きくなった「外痔核」の2つに分けられます。普通、痔核と言えば、内痔核のことを指します。





外痔核ができると痛みを伴いますが、特に問題になるのは、突然、肛門周辺が腫れて激しい痛みに襲われる「血栓性外痔核」や「カントン痔核」が起こったときです。

血栓性外痔核は、肛門周辺の血管にあずき大の血栓(血の塊)ができ、いぼのような硬いしこりになったものです。皮膚が破れて出血することもあります。

それまで痔の気のまったくなかった人でも、「便秘で強くいきむ」とか、「長時間おなじ姿勢を続ける」「冷える」などして、肛門に負担がかかったときに、突然、発症します。

痔核の急性期と言え、激痛のため、座ることも、歩くことも、ましてや排便することさえも困難になります。もちろん、患わった人は病院へ駆け込むことになりますが、手術が行われることはありません。

血の塊が原因なので、入浴やカイロなどでお尻をよく温め、座薬や軟膏などの外用薬や、内服薬で保存的な治療を行うと、数日で痛みや腫れは消え、血栓も1ヶ月ほどで自然に吸収されてしまいます。








下痢は、痔瘻の原因です。下痢の原因はさまざまですが、アルコールをとり過ぎると下痢を起こしやすくなります。また、タバコに含まれるニコチンは、便を柔らかくする作用があるので、下痢症の人が喫煙すると、下痢がひどくなることがあります。痔瘻が男性に多く見られるのは、男性に飲酒や喫煙の習慣がある人が多いことも原因の1つとして考えられます。

また、下痢は、痔核や裂肛とも関係しています。水溶性の激しい下痢だと、便が勢いよく出るため、考えている以上に肛門に負荷がかかり、肛門が切れてしまうこともあるのです。また、頻繁にトイレにいって排便することも、肛門がうっ血する原因になります。

このように、便通の異常があると、肛門に負荷をかけない自然な排便ができなくなり、痔が発生しやすくなります。便通異常は、食物繊維の不足や、ダイエットによる小食、また、暴飲暴食などの不規則な生活など、ライフスタイルの乱れから起こることが多いので、毎日の生活を見直し、自然な排便ができるよう、生活を改善していかなくてはなりません。

長時間立ちっぱなし、座りっぱなしなど、同じ姿勢を続けるのも、肛門がうっ血するので、痔の発症に関係します。
さらに「体の冷え」もお尻のうっ血につながるので、寒い冬だけではなく、夏場でもエアコンの効いた室内で仕事をする現代は痔に好ましくない環境だと言えます。

痔になるかならないかは、生まれつきの体質もある程度関係していると考えられますが、それよりも、毎日の生活習慣のほうが、はるかに大きく影響しています。つまり、痔の発生や悪化を防ぐ手立ては、食生活をはじめとする日常生活をいかに健全なものにするかという点にかかっているのです。








出血した場合、いきむと出血が多くなるので、できるだけお腹にチカラを入れないようにします。そして、トイレから出たら、入浴か座浴でお尻を清潔にし、軽くガーゼを当てて、しばらく横になるなど安静にします。お尻の位置を心臓より高くすると、出血が止まりやすくなります。応急処置をしたあとは、できるだけ早い段階で医療機関を受診するようにしましょう。







激痛が起こったら、まず安静が第一です。お尻にチカラが入らないよう、ひざを曲げて横向きに寝る姿勢をとると痛みがいくぶん和らぎます。血栓性外痔核は、患部のうっ血が原因なので、お尻を温めて血行を良くするのが、痛みを和らげる最善の方法なのです。
入浴や座浴が無理な場合は、熱くしたタオルやカイロをお尻に当てるだけでも効果があります。この場合には低温やけどに注意してください。







肛門に負荷をかけない理想的な便を1言で言い表すと、「有形軟便」です。もう少し詳しくいうと、いきまなくてもスルリと出すことができ、バナナくらいの大きさで、便器の中では水に浮いていて、拭いたときに紙にほとんど付かない便です。こうした便が1日に1回出るとよいのですが、気持ちよく排便できるのなら、2、3日に1回の排便でも問題ありません。








人間の身体は普通、朝食後に便意が起こるようになっています。夜の間眠っていた胃腸がものを食べることで目覚めて動き出すのです。これで、腸に溜まっていた内容物が一気に直腸に運ばれ、便意が起こります。これを「胃・結腸反射」といい、食後30分以内に起こるのが一般的です。
起きがけに冷たい水などをコップ1杯飲むのも、胃・結腸反射には効果的です。








運動は全身の血液循環を良くするので、お尻のうっ血を解消するほか、腸の運動がうながされて便秘の解消にもなります。また、運動はストレスの解消にもなるので、ストレスによる便秘や下痢にも効果的です。








いきむと誰でも肛門が外側に押し出される状態になります。そこで、排便後に押し出された肛門を引き上げるように、キュっと締める「肛門体操」をすると、肛門が元の位置に戻ります。同時に、肛門周辺を動かすことになるので、血流が良くなって、うっ血の解消にもなります。

方法は、立ったままでも座ったままでも構わないので、肛門を上に引き上げるように、2、3回肛門を締めたり緩めたりします。いつでもどこでもできるので、ぜひ習慣にしてください。1日に何回と決めるのではなく、いつでも思い立ったときに行うようにしましょう。












お尻をいたわる日常生活は、そのまま痔の予防策にもなります。痔を患わっている人はもちろんですが、今は「痔なんて関係ない」と気ままに生活を送っている人たちも、普段からもっとお尻の健康に気を配るべきでしょう。
また、「お尻をいたわる生活」は、「体全体をいたわる健康的な生活」にもつながります。今日から早速実行していただきたいと思います。